よりSchemerフレンドリなJavaScriptへ

'("Kyoto.lisp Tech Talk #1" . "@taiju")

免責

• 当スライドで使用するLispコードはGaucheにて評価可能です。また、一部でGauche独自のメソッドを利用している箇所もあります。
• 当スライドでは、JavaScriptとECMAScriptという名前を使っておりますが、厳密に使い分けているわけではありません。文脈によって、適当に選んでいます。
• 将来のECMAScriptに導入することを提案されている機能のサンプルは提案が通らない場合もありますし、仕様が変わる場合もありますので、動く保証はありません。

自己紹介

(define profile
  (hash-table 'eq?
    '(name . "HIGAHI Taiju")
    '(from . "Fukui")
    '(twitter . "@taiju")
    '(blog . ("あと味" . "http://d.hatena.ne.jp/jdg"))
    '(favorites . ("JavaScript" "Perl" "Scheme"))))

JavaScriptはSchemerが作った

• Brendan Eich（ブレンダン・アイク）
• NetScape時代にJavaScriptを開発
• 現Mozilla CTO

As I’ve often said, and as others at Netscape can confirm, I was recruited to Netscape with the promise of “doing Scheme” in the browser.

Popularity | Brendan Eich

JavaScriptとSchemeの共通点

• 第一級関数
• 変数と関数の名前空間が同一
• lambda式 ※1
• レキシカルスコープ ※2

※1 JavaScriptではlambdaではなくfunctionと書く

※2 JavaScriptではレキシカルスコープは関数を定義することによって発生する

第一級関数

JavaScript

var add = function(f1, f2) { return f1() + f2() };
var one = function() { return 1 };
var two = function() { return 2 };
add(one, two);
// 3
    

Scheme

(define add (lambda (f1 f2) (+ (f1) (f2))))
(define one (lambda () 1))
(define two (lambda () 2))
(add one two)
;; 3
    

変数と関数の名前空間が同一

JavaScript

var f = function() {};
var f = "function";
f();
// f is not a function

Scheme

(define f (lambda ()))
(define f "function")
(f)
;; invalid application

lambda式

JavaScript

var arithmetic = function(x, y, op) {
  return op(x, y);
};
arithmetic(5, 2, function(x, y) { return x * y });
// 10

Scheme

(define arithmetic (lambda (x y op)
  (op x y)))
(arithmetic 5 2 (lambda(x y) (* x y)))
;; 10

レキシカルスコープ

(function() {
  var i = 100;
  (function() {
    var i = 200;
    console.log(i);
    // 200
  })();
  (function() {
    var i = 300;
    console.log(i);
    // 300
  })();
  console.log(i);
  // 100
})();
console.log(i);
// i is not defined

(let
  ((i 100))
  (let ((i 200))
    (print i))
    ;; 200
  (let ((i 300))
    (print i))
    ;; 300
  (print i))
  ;; 100
(print i)
;; unboud variable i

Webに携わっていれば、多かれ少なかれ触ることになるJavaScriptですが、作った人がSchemerで本当に良かったと個人的に思ってます。

手前味噌ですが、以前もSchemeとJavaScriptの共通点について書きました。

ここにいろんな参照先が載ってます。

jstudyで「JavaScriptとLisp」ってタイトルのLTしました - あと味

ECMAScript 3

ほとんどのブラウザで安心して使える堅いバージョン。

IE6-IE8はこのバージョンのサポートで止まっている。

ECMAScript 4

クラスベースのオブジェクト指向の導入を試みる大胆な取り組みだったが、反対も多く、最終的に放棄されたバージョン。

ActionScript 3はこのバージョンを採用したため、JavaScriptと似てるようで全然違う言語になった。

Schemerは好んで使わんでしょう。 ;-p

ECMAScript 3.1 ECMAScript 5

ECMAScript 4の失敗を経て、対抗勢として策定が進んでいたECMAScript 3.1をベースにECMAScript 5と名前が変更されリリースされたバージョン。

現在、主な主要ブラウザは大体このバージョンが使える。

IEはIE9とIE10でサポート。

※ただし、一部サポートされていない機能のあるブラウザもある。

ECMAScriptの歴史の紹介は以上ですが、ECMAScript 5がサポートされたことで、Schemerにとって嬉しいだろうポイントをご紹介。

Schemerにとって嬉しいだろうポイント

ES5では、特にObject周りが充実しましたが、JavaScriptユニークな仕様に関するものなので、Schemer的に嬉しいかどうかは微妙です。

とは言え、ES5は、IE8ですらサポートしていないので、先に紹介したメソッドなどは、ライブラリを利用して、機能追加するか、自分で再定義する必要がありますね。

標準仕様で使いたい人向け: es5shim.js
標準仕様よりも利便性という人向け: Underscore.js

ES5の実装状況などは下記のサイトが参考になります。

ECMAScript 5 compatibility table

よりSchemerフレンドリなES.next

ES.next（EcmaScript 6）はずいぶんSchemerフレンドリになってきます。

※2012年05月12日の[[harmony:proposals]]を参考にしています。

let

{ let i = 100;
  { let i = 200;
    console.log(i); }
    // 200
  { let i = 300;
    console.log(i); }
    // 300
  console.log(i); }  
  // 100
  console.log(i);
  // i is not defined

(let ((i 100))
  (let ((i 200))
    (print i))
    ;; 200
  (let ((i 300))
    (print i))
    ;; 300
  (print i))
  ;; 100
(print i)
;; unbound variable i

harmony:block_scoped_bindings [ES Wiki]

分割代入

ES.next（ES6）

{
  let [a, b] = [1, 2];
  let [c, d] = [3, 4];
  [a, b, c, d];
  // [1, 2, 3, 4]
}

Scheme

(use srfi-11)
(let-values (((a b) (values 1 2))
             ((c d) (values 3 4)))
  (list a b c d))
;; (1 2 3 4)

harmony:destructuring [ES Wiki]

レストパラメータ

var f = function(a, b, ...z) {
  return [a, b, z];
};
f(1, 2, 3, 4, 5);
// [1, 2, [3, 4, 5]]

(define f (lambda (a b . z)
  (list a b z)))
(f 1 2 3 4 5)
;; (1 2 (3 4 5))

harmony:rest_parameters [ES Wiki]

ジェネレータ

function* fibonacci() {
  let [prev, curr] = [0, 1];
  for (;;) {
    [prev, curr] = [curr, prev + curr];
    yield curr;
  }
}
let seq = fibonacci();
print(seq.next()); // 1
print(seq.next()); // 2
print(seq.next()); // 3
print(seq.next()); // 5
print(seq.next()); // 8

harmony:generators [ES Wiki]

ES.next（ES6）の実装状況などは下記のサイトが参考になります。

ECMAScript 6 compatibility table

おまけ - Mozjs

Brendan Eich先生がCTOだけあって、MozillaはES6の機能を相当前から先行実装していたり、JavaScriptの処理系の中でもRhinoにおいては、インタープリターモードにて、末尾呼び出しの除去や、継続オブジェクトをサポートしていたりします。

Optimization

Harmony Of My Dreams by Brendan Eich

JavaScriptをこんな風にしたいんだと、proposalに上がっていないものも含めて、Brendan Eich先生がざっくばらんに語っている記事。

Hermony Of My Dream
My JSConf.US Presentation※
※Harmony Of My Dreamsのエントリーの後に開かれたカンファレンスの資料

文章から、Brendan Eich先生のScheme愛や、
Guy Steel先生への尊敬の気持ちが伝わってくる熱い文章です。

CoffeeScriptにずいぶん感化されてるご様子。

より小さい言語にしていきたいとのこと。まるでSchemeですね。

proposalにまだ上がってないものとしては、関数のリテラル表記、レコード、タプル、末尾呼び出しの表記例が載っています。

最後にこんなことを言っています。

This is a long post. If you made it this far and take away anything, I hope it is Guy's "Growing a Language" meta-point. JS will be around for a very long time, and it has a chance to evolve until its users can replace TC39 as stewards of its growth.

適当な訳

長文スマソ。このまま良い感じになって、Guyの言う"成長する言語"を作れたらいいな。JSはすげー長く使われると思うし、ユーザーがECMAScriptを置き換えるこの時が、チャンスなんだよね。

The promised land would be macros, for syntactic abstraction and extensibility.

適当な訳

小さな言語の最終的な到達点はマクロだと思ってる。

I am not holding my breath, but even without macros, the Harmony-of-my-dreams sketched here would be enough for me.

適当な訳

まー、でもそこまではいいわ。マクロなくたって、ここに書いたことが実現できたら俺はそれで充分っす。

Schemeフレンドリになると力説してきましたが、マクロを導入するとかは、さすがにないっぽいですね...

諦めんなよ!
諦めんなよ、お前！！
どうしてそこでやめるんだ、そこで！！
もう少し頑張ってみろよ！
ダメダメダメ!諦めたら!
周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって!
あともうちょっとのところなんだから!

とエールを送りつつも、
Schemerフレンドリになる、
未来のJavaScriptはとても楽しみですね。

ご清聴ありがとうございました